4.2 進化心理学へのシンプルな道
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ピーター・トッド(Peter Todd)
数学専攻で学士
機械言語と言語処理関係の研究で哲学の修士
心理学の修士、学習の汎化の研究で心理学の博士号
ヒトの発達研究
トッドの研究に含まれるもの
意思決定におけるヒューリスティクス思考の役割
環境に依存する情報の利用
進化心理学とコンピュータシミュレーションを用いた行動認知進化の研究
ヒトが時間的・空間的に食料や配偶者を探索する時の戦略
高速倹約ヒューリスティクスに関する研究を行い、"Simple Heuristics That Make Us Smart"としてまとめた。
コンピュータシミュレーションなどの手法を用いて、ヒトや他の有機生命体がどのように有限の時間と情報のもとで、簡潔かつ有効なヒューリスティクスを使って、賢く決定・分類・予測を行うのかについて論じた
その他に神経ネットワークモデルを用いた音楽研究の論文集
神経ネットワークモデルの音楽における応用を紹介し、音調の知覚や、和音演奏の指法、計算作曲などの内容や最新の研究成果を紹介している
私は配偶者選択や食料の探索のような適応上重要な場面において、人々がどのように意思決定するのに興味を持っている
自然や動物の行動(生物学)とものの機能(工学)について興味があった
行き着いたのは、人々はわずかな情報・計算によるシンプルな意思決定メカニズム――ヒューリスティクス――を使って、いかによい選択をすることができるのかを探ること
利用可能なもの――ヒトが置かれた環境の豊かな情報構造――を利用することによって、有効に機能すると言える
1980年代の前半、大学で数のふるまいを理解するために数学を、自分で挙動をコントロールできるものを作るあtめにコンピュータサイエンス(特に人工知能とコンピュータ音楽)を学んだ
人間行動にも関心があったが、普通のトピックはあまりおもしろく思えなかったので、心理学の授業はとっていなかった
大学院への進学を出願したとき、認知科学こそ私を魅了することのほとんどを集めていて、行動のしくみのモデル構築という形でまとめあげられていることに気づいた
ケンブリッジ大学の修士課程に居た頃、ドン・ノーマンと出会い、二つのことを教わった
われわれの思考や行動に環境がきわめて重大な役割を果たしているというアイディア
カリフォルニア大学サンディエゴ校の認知科学の研究プログラム
デヴィッド・ラメルハートの指導のもと、学習と意思決定のモデル構築のために神経ネットワークについて研究
リック・ブリューと一緒に進化的探索プロセスのモデル構築のために遺伝学的アルゴリズムについて研究
スタンフォードで、ジェフリー・ミラーと友達になった
彼はロジャー・シェパードと共同研究をしていた
シェパードはヒトの心や知覚システムの構造が物理世界の永続的パターンをいかに反映しているのか(例えば、太陽からの放射線の分布が色の知覚と一致するか)について深く興味を抱いていた
シェパードがコスミデスとトゥービーを受け入れるや否や、心理学部全体でヒトの認知の形成における進化の役割について議論や論争がされるようになった
実際に観察できない進化から、どんなことが得られるのか?
人工の心の進化なら、コンピュータ・シミュレーションを通して観察できる
ジェフリーと私は、シミュレーションモデリングの技術(神経ネットワークと遺伝的アルゴリズム)を活かし、シンプルな脳の進化をコンピュータ上でモデル化して研究した
複雑な人間行動のモデル化には程遠いものではあったが、連合学習(Todd & Miller, 1991a)、鋭敏化や馴化(Todd & Miller, 1991b)がどのような環境で生じるのかなど、学習の重要な要素の進化を研究した
私たちは、配偶者選択と性淘汰は行動の進化や新種形成を促す重要なものであると考えるようになり(Todd & Miller, 1993)、それをもとにジェフリーは性淘汰がヒトの心の形成にどう作用したかをテーマに学位論文をかき揚げ、研究成果は最終的に彼の著書"The Mating Mind(恋人選びの心)"(Miller, 2000)としてまとめられた
これらのシミュレーションモデルは、動物(ヒトを含む)心理学だけでなく、他の社会科学の分野においても、複雑な社会システムに関する理解を促すツールとして使えるのではないかとジェフリーと一緒に議論した(Todd, 1996)
1989年、スタンフォードの行動科学高等研究センターに新たに共同研究グループが設立し、彼らは後に進化心理学の勃興の中核を担うことになる
コスミデスとトゥービー、マーティン・デイリー、マーゴ・ウィルソン、デヴィッド・バス、ギゲレンツァーらが加わった 
適応行動の基本原理に到達するという目標のもと、感覚を持たない(生涯において環境からのインプットを受けず、特定の生得的行動パターンの進化をするのみの)人工生命を作った(Todd & Yanco, 1996)
その後、行動はまったく対象とせず、人工的な死について研究した(Todd, 1994)
行動に回帰しようということで、食料の探索や配偶者選択に立ち返って研究を続けた
デンバー大学に着任後、ギゲレンツァーからミュンヘンのマックス・プランク研究所の新しい心理学研究チームの立ち上げに誘われた
その後の10年で、私は適応行動・認知センター(Adaptive Behavior and Cognition Center: 俗にABCグループとして知られる)で、シンプルでありながら効果的な意思決定について研究した
限られた知識・時間・計算能力の制約のもとで、ヒトや他の動物はどのような適切な選択をするのか
私たちがみつけた答えは、よい意思決定というのは、特定の環境で入手可能な情報構造にマッチした、シンプルなヒューリスティクスや経験則によって導かれるというもの
二つの構造(「心に内在する意思決定メカニズム」と「世界に存在する情報の構造」)がピッタリ合わさったとき、これら二つの構造はわれわれが生態学的合理性(周囲の情報環境の重要なパターンを利用する適応的意思決定の合理性: Todd & Gigerenzer, 2007)と呼ぶものに達する
この枠組の中で、私はシンプルさについて、単にシミュレーションを行う上で便利な方法論的アプローチであるだけでなく、実際に生物が意思決定の際に追求していることなのだと考えるようになり、シンプルさそのものについて研究し始めた
ある状況を他の状況にも一般化させる際に、複雑な意思決定戦略よりも有用であることを、私たちは発見した
研究成果を"Simple Heuristics That Make Us Smart"(Gigerenzer, Todd, & the ABC Group, 1999)にまとめた
環境の重要性を分野横断型の研究環境の構造にも応用した(Gigerenzer et al., 1999; Todd, Gigerenzer, & the ABC Group, 2012; Hertwig, Hoffrage, & the ABC Research Group, 2013)
ある意思決定メカニズムの生態学的合理性を研究するために私たちがABCグループで築いた戦略は、Cosmides & Tooby (1987)から始まる進化心理学の研究計画を踏襲して段階的に進めた
意思決定を行う環境とそこで入手可能な情報構造の分析から始まり、あるヒューリスティクスが特定の環境でうまく機能するかを検証するヒューリスティクスメカニズムのシミュレーション、ヒューリスティクスがうまく機能する(あるいは機能しない)情報構造の数理的解析、人々が実際にそれらのヒューリスティクスを使うのはいかなる場合かについての実証研究へとつながっている戦略
この過程で、あらゆる環境で個体(または集団)が直面する問題の解決のために使われる様々なシンプルなヒューリスティクスや(複雑で入念な計画も含めた)意思決定方略で構成される、心の適応的道具箱の青写真を作り上げた
シンプルな順次探索戦略において配偶者選択をいつ停止すべきかという問題を研究するために、シミュレーションに着手した(Todd & Miller, 1999)
最初、婚姻関係の人口学的パターンに関する既存の記録を解析したので、実験なしで適切なデータを入手することができた(Todd, Billari, & Simao, 2005)
スピードデートを使って順次配偶者選択を研究した
恋愛対象となる得る相手と順番に出会ってそれぞれと3分間話をし、次のミニデートに移る前にその人ともう一度会いたいかを決める
私たちが調べたかったアイデアは、祖先が置かれた環境では集団間の接触パターンに変動があり、各個人は配偶者になり得る複数の相手に時折遭遇するけれども、将来再び配偶者選択の機会があるかどうかは予測で生きず、また過去に却下した相手のもとに戻ることは通常は不可能だっただろうというもの
このような、将来についての知識がなく、かつ過去のパートナーにアクセスできない順次探索状況において使われる最適なヒューリスティクスとして、ハーバート・サイモン(Herbert Simon, 1999)は満足化というものを提唱した
満足化とは、閾値(aspiration level)を設定し、閾値を超えるもの(配偶者選択の場合なら配偶相手)が見つかったら探索をやめるというもの
配偶者探しが相互的である場合、閾値を自分自身の配偶相手の価値と等しく設定すると探索の成功率が高くなる
そのために必要なのは、配偶者候補と最初の数回の遭遇時に、自身の配偶相手としての価値を学習すること(Todd & Miller, 1999)
スピードデートは本質的にはこの拡張型順次探索プロセスをスピードアップさせた現代版
この戦略は、セッションを通して固定した閾値を使うといった他のヒューリスティクスよりも参加者たちの選択をよりよく説明できた(Beckage, Todd, Penke, & Asendorpf, 2009)
参加者たちがとても積極的に参加したこのスピードデートのパラダイムは、豊富なデータを算出し、私たちはまだデータ 解析を続けながら、人々がどのように配偶者を選ぶのかの理解に努めている(例えば、Todd, Penke, Fasolo, & Lenton, 2007)
私たちはスピードデートと同じく、参加者の興味を引く工夫を凝らした実験状況を他にも開発している
コンピュータゲームで資源を探す実験を通して食料の探索について
カードゲームを通して探索の中止について
Twitterを使った食事記録や一人前の量を見ることができないくらいレストランでの食事を通して食物や食事量の選択について
私たちは、様々な異なる環境で機能するたくさんのシンプルな道具(ヒューリスティクス)で構成されている心の適応的道具箱というものを考えだしたが、適応的領域ごとに必ずしも異なる道具が求められるとは限らない
情報環境の構造が類似していれば、道具は共通かもしれない
トーマス・ヒルズとロブ・ゴールドストーンと私は、空間的食料探索と記憶探索のための道具は本質的に共通のメカニズムに根ざしていることを、一方の領域における探索が他方の領域における行動をプライムするという研究結果によって示した(Hills, Todd, & Goldstone, 2008)
ここでの記憶探索は、パズルの答えを見つける、あるいは様々な種類の動物を思い出すといったようなもの
現在は、大学院生のコー・サン(Ke Sang)と一緒に、「探索を続けるか、今ある資源を利用するか」に関する意思決定は、異なる領域においても共通のメカニズムに基づいて行われる、という可能性について検討している
この研究は、進化が形成した心の働きは一般的な意味で領域固有的なものではなく、環境構造の特定のパターンに特化したメカニズムの集合体であり、領域の外にも予測可能な影響を及ぼすという見方に繋がるだろう
環境固有性というパースペクティブは、古代の環境構造と現代の環境構造とのミスマッチを理解し、望ましい方向へ行動を後押しするように現在の環境を変えるといった形で、研究成果を現代社会に還元するのにも役立つだろう